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◎「うたのある風景」 「おしん」と「君死にたまふことなかれ」

 今年4月からNHKのBSプレミアムで、連続テレビ小説「おしん」の再放送が始まりました。「おしん」は、1983年に放送されたもので、最高視聴率が62・9%とテレビドラマ史上最高を記録しています。

 ドラマは、日露戦争(1904~05年)が終わったころの1907年(明治40年)の山形県の山村が舞台です。小作の子どもとして生まれたおしんは、あまりにもの貧しさのために、わずか7歳で奉公に出されます。

 いくらいじめられても健気(けなげ)なおしんに、視聴者は惹きつけられます。赤いほっぺの大きな目の小林綾子が演じるおしんに、どれほど多くの人々が涙したことでしょうか。

おしん 写真
(おしん=NHKから)

 なかでも、日露戦争での殺しあいに疑問を持って脱走兵になった俊作に、おしんが雪の中で助けられ、俊作に戦争について教えられるシーンは、今見ても色あせないものがあります。

 大阪府堺市出身の与謝野晶子の詩「君死にたもうことなかれ」を読み上げ、おしんに聞かせる俊作です。

……
ああおとうとよ 君を泣く 君死にたもうことなかれ
末に生まれし君なれば 親のなさけはまさりしも
親は刃(やいば)をにぎらせて 人を殺せとおしえしや

人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや
堺(さかい)の街のあきびとの 旧家をほこるあるじにて
親の名を継ぐ君なれば 君死にたもうことなかれ

旅順(りょじゅん)の城はほろぶとも ほろびずとても 何事ぞ
君は知らじな あきびとの 家のおきてに無かりけり
君死にたもうことなかれ すめらみことは 戦いに

君死にたまふことなかれ 写真
(2004年に開かれた堺市立文化館、与謝野晶子文芸館での「君死にたまふことなかれ」100年記念展から)

おおみずからは出でまさね かたみに人の血を流し
獣(けもの)の道に死ねよとは 死ぬるを人のほまれとは
大みこころの深ければ もとよりいかで思(おぼ)されん
ああおとうとよ 戦いに 君死にたもうことなかれ
……

 そして俊作は、おしんに言います。
 「おしん1人だけでも戦争に反対するんだ」

 今のテレビドラマで、ここまではっきりと反戦を訴えるのがあるのでしょうか。少なくとも36年前の1983年当時は、NHKのドラマは堂々と戦争反対を主張していました。

 昨年(2018年)は「明治維新150年」といって、戦前と戦後をいっしょにして持ち上げる空気が作られました。戦前の77年間は、日清戦争、日露戦争を経てアジア・太平洋戦争と戦争に次ぐ戦争の時代でした。

 「1人だけでも戦争に反対するんだ」と語った俊作の言うことを守ったのは、政党では日本共産党だけでした。310万人の日本人と2000万人以上のアジア・太平洋戦争の犠牲者の上に作られたのが憲法9条です。

 安倍9条改憲が強まる中、「おしん」の再放送を見ながら痛感しました。「9条を輝かせることがますます必要な時代になっているんだ」、と。

                 ◇

 この記事は、4月30日にアップする予定でしたが、都合により前日にアップしました。
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「うたのある風景」 | コメント(4) | トラックバック(0) | 2019/04/29 16:08

◎シリーズ「うたのある風景」 「太郎の屋根に雪ふりつむ」

 三好達治の「雪」という詩があります。

……
 太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。

 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
……

 たった2行の詩。どの語彙も削ることができないほどの完璧な詩。しかも、そのイメージの豊かさは、どんな長い詩にも負けないほどです。

 雪が深々とふりつづけ、屋根に静かに積もっていく。シーンとし、冷気がピーンと張りつめたなかで、太郎、次郎が眠っている。どんな顔をして? そばに母親がいる。そっと微笑む……。

10 測量船


 この詩は、三好達治が1930年(昭和5年)12月にまとめた詩集『測量船』に収められています。「乳母車」や「甃のうえ」など教科書に掲載される名詩とともに。

 手元には、『測量船』の復刻版があります。『測量船』に収められた詩は、意外に散文詩が多く、この「雪」は例外的に短い詩です。詩の要素は、鮮烈なイメージであることを教えてくれます。

12 富士山 (1)
「うたのある風景」 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2019/01/25 08:53

◎シリーズ「うたのある風景」 「僕は思わずくしゃみをした」

 JAXAとNHKが共同制作した「地球の出」のDVDがあります。荒涼とした月の地面のかなたから青い地球が登ってくる映像です。私たち人類にとって、地球はかけがえのない、おもわず頬ずりしたくなる存在であることに気づかされます。

 詩人の谷川俊太郎氏の最初の詩集「二十億光年の孤独」に、同名の詩が収められています。

……
「二十億光年の孤独」   谷川俊太郎

人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
 
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或いは ネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ
 
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
 
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
 
宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である
 
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした
……

40 地球の出
(JAXAとNHKが共同制作した「地球の出」から)

 「地球の出」を読むと、この詩を思い出します。「孤独」をキーワードにした詩ですが、最後の「僕は思わずくしゃみをした」は、何を意味しているのでしょうか?

 この詩は、教科書にも採用されています。「筑摩書房の教科書サイト」で「ちくまの教科書」を見つけました。そこには子どもにわかるように、どう授業するかが書かれています。

 くしゃみをすると、だれかが自分の噂話をしているというのは、昔から伝わることわざです。地球人だけでなく火星人も孤独だと言うと、火星人は地球人も孤独だと噂話をしている…そんな解釈でしょうか。
「うたのある風景」 | コメント(1) | トラックバック(0) | 2018/09/06 09:14

◎シリーズ「うたのある風景」 礼節だけはわきまえて

 赤レンガ造りのチャペルで知られる神戸市灘区王子の神戸文学館。六甲山を背景にした文学館は、落ち着いたたたずまいで、心が安らぐ。神戸ゆかりの作家たちの原稿や本、作家のコーナーなどが設けられている。

 野坂昭如、横溝正史、椎名麟三、大岡昇平、灰谷健次郎などの原稿、本を見て回っているなかで、「久坂葉子詩集」に目が止まった。広げられた詩集のページには、「こんな世界に私は住みたい」との詩があった。

 こんな世界に私は住みたい
 肩書きもいらず勲章もなく
 人はそれぞれはだかのままの心でもって
 礼節だけはわきまえて
 男も女も仕事をし
 男も女も恋をして
 ひとりひとりの幸福を
 ひとりひとりのねぎごとを
 心にそっと小さくもって
 一生かかって、みずからのためしつくす
 こんな世界に私はすみたい

神戸文学館
(六甲山を背景にした神戸文学館)

 緑の六甲の山に向かって、静かに朗読したくなるような詩だった。仕事をし、恋をし、礼節だけはわきまえて…そのフレーズを静かに口ずさみたくなる。働き疲れ時に、人と人の間の取り方に心労した時には、そっと声を出して。

 久坂葉子(本名は川崎澄子)は、川崎重工グループの創業者、川崎正蔵のひまごである。詩や小説を書き、『ドミノのお告げ』は1950年の芥川賞候補になった。

 亡くなる前に書いた、遺書ともいうべき「久坂洋子の誕生と死亡」に、創作の喜び、苦悩を書きつづっている。新聞記者からの電話にガチャリと受話器を置いた。「絵や舞踏やピアノをやっている令嬢の絵巻」というテーマで記事を書きたい、というものであった。

 父親とたびたび口論した。「お前の幸福のためには結婚して、女らしい生き方をしたらよいのだ」といわれる。薬を飲んで自殺する話も出てくる。それは現実のものになった。1952年12月、21歳で鉄道自殺した。

 戦争が終わり、個人の尊厳、女性の社会進出など日本が民主化されていく時代と朝鮮戦争(1950年)を契機に民主化への反動が強まった時代に久坂洋子は生き、苦悩した。

 「こんな世界に私は住みたい」は、久坂洋子が願った世界である。その願いは、私たちに引き継がれているのだと思った。
「うたのある風景」 | コメント(3) | トラックバック(0) | 2018/06/10 20:22
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